チェアマットは必要か|賃貸の床とキャスターの傷

デスク・チェア


賃貸で在宅ワークを始めると、キャスターの椅子が気になってきます。転がすたびに床が削れている気がして、退去のときに請求されないか不安になる。

先に結論を書きます。国土交通省の原状回復ガイドラインには、「キャスターによる床の傷」という項目がありません。 近いのは2つで、家具の設置によるへこみ・設置跡は貸主の負担、引越作業等で生じた引っかきキズは借主の負担と書かれています。つまりキャスターの傷は、へこみ側ではなく引っかきキズ側に寄る可能性があります。

チェアマットは必要か。90×120cmがカバーするのは68%、19製品の価格の中央値は3,220円、床の部分補修は経過年数を考慮しない

この記事では、ガイドラインの原文を確認したうえで、必要なマットの大きさを実寸で計算し、19製品のサイズ・厚み・価格を比べます。デスク環境そのものの寸法は在宅ワークのデスク環境に、椅子の選び方はオフィスチェアの選び方にまとめています。

手順1|負担の線がどこにあるかを、原文で確認する

まず、床の傷が誰の負担になるのかを確認します。基準になるのは国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」です。

この中の「賃貸人・賃借人の修繕分担表」では、床について次のように分かれています。

貸主(賃貸人)の負担 借主(賃借人)の負担
畳の裏返し、表替え(次の入居者確保のために行うもの) カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こぼした後の手入れ不足等の場合)
フローリングのワックスがけ 冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害を与えた場合)
家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡 引越作業等で生じた引っかきキズ
畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなど) フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)

家具のへこみが貸主の負担になる理由は、ガイドラインにこう書かれています。「家具保有数が多いという我が国の実状に鑑みその設置は必然的なものであり、設置したことだけによるへこみ、跡は通常の使用による損耗ととらえるのが妥当」。

置いただけのへこみは通常損耗、動かしてついた傷はそうではない、という線です。キャスターは転がすものなので、へこみ側には当てはまりません。

なお、このガイドラインは法律ではありません。原文にも「その使用を強制するものではなく」と書かれていて、最終的には契約内容や使用の状況によって個別に判断されるとされています。裁判で参考にされることが多い基準、という位置づけです。

手順2|フローリングは「住んだ年数」で安くならないことを知る

ここがいちばん知られていない点だと思います。

壁紙などは、経過年数(入居年数)を考慮して借主の負担が減っていきます。ところがフローリングの部分補修は、経過年数を考慮しません。 ガイドラインの本文にこうあります。

③ 経過年数(入居年数)を考慮しないもの
もっとも、建物本体と同様に長期間の使用に耐えられる部位であって、部分補修が可能な部位、例えば、フローリング等の部分補修については、経過年数を考慮することにはなじまないと考えられる

理由は、部分的に直してもフローリング全体の価値が上がるわけではない(つぎはぎになる)から、というものです。

つまり5年住んでいても、キャスターで削った部分の補修費は減額されません。 壁紙のように「6年住めば1円」とはならない部位です。ただし床全体を張り替える場合は、経過年数を考慮するのが適当とされています。

数千円のマットを敷くかどうかの話が、ここで意味を持ってきます。

手順3|必要な大きさを、椅子の動く範囲から計算する

マットのサイズは、天板の幅ではなく椅子が動く範囲で決まります。

記事①で計算したとおり、椅子を引いて立ち座りするには、デスクの前面から約100cm必要です。デスクは幅100×奥行60cmを標準にします。

掲載製品で最も多かった90×120cmのマットを、この環境に当てはめます。

マットの奥行  120cm
椅子の引きしろ −100cm
────────────────────
デスク下に入る分  20cm

奥行きは足ります。 ただしデスクの下には20cmしか入らないので、デスクの脚はマットの外に出ます。

問題は幅のほうです。

デスクの幅    100cm
マットの幅   − 90cm
────────────────────
足りない分    10cm

マットの幅90cmは、デスクの幅100cmより10cm狭いままです。 椅子は前後だけでなく左右にも動くので、端から出た分の傷はマットの外につきます。

90×120cmの面積は1.08㎡です。デスク環境に必要な1.6㎡(記事①)と比べると、約68%しかカバーしていません。

デスクの幅と同じかそれ以上にしたいなら、次のサイズは120×160cmや130×160cmになります。130×160cmは2.08㎡で、6畳(約9.27㎡)の約22%を占めます。ワンルームでは、ここが判断の分かれ目です。

手順4|素材と厚みを決める

19製品を調べたところ、素材は3つに分かれました。

素材 特徴 価格の傾向
PVC(塩化ビニル) 19製品中10製品。薄い製品は1.5mmで段差が出にくい 2,080〜13,600円
ポリエステル・フランネル(布) 厚みは4mm前後の製品が多い 2,280〜9,099円
ポリカーボネート 硬くて重く、ずれにくい素材とされる 5,973〜9,460円

厚みは1.5mmから4mmまで確認できました。薄いほうが段差でつまずきにくく、厚いほうが床への当たりがやわらかくなります。ワンルームの場合、デスクの下だけでなく生活動線の上にマットが来るので、薄い製品のほうが扱いやすいです。

山善のPVCマット(CFM-120)は厚み1.5mmで、「はさみで切れる」と明記されています。柱や巾木を避けたいワンルームでは、この加工できるかどうかが効きます。

19製品のサイズ・素材・価格

2026年9月17日時点で、製品比較サイト「マイベスト」に掲載されているチェアマットのデータをまとめました。

サイズ 製品数 価格帯
90×120cm 9製品 2,280〜9,460円
130×160cm 3製品 3,599〜4,380円
80×100cm 2製品 2,080〜2,290円
その他(100×140/120×160/90×180/150×200/160×180) 5製品 2,580〜13,600円

価格は2,080〜13,600円で6.5倍の開きがあり、中央値は3,220円でした。 サイズは90×120cmがほぼ半数を占めています。

主な製品を並べます。

製品 サイズ 素材 厚み 価格
Kumori チェアマット 80×100cm PVC 1.5〜2.0mm 2,080円
Hriiiiya チェアマット 90×120cm PVC 4mm 2,280円
ATOKA チェアマット 90×120cm ポリエステル — 2,280円
山善 CFM-1080 80×100cm PVC — 2,290円
TITIROBA チェアマット 90×120cm PVC 2.0mm 2,707円
サンコー チェアマット 90×120cm ポリエステル 4mm 2,868円
GTRACING チェアマット 120×160cm PVC 2mm 3,220円
SALLOUS デスクマット 130×160cm PVC 1.5mm 4,380円
アイリスオーヤマ PCM-129 90×120cm ポリカーボネート — 5,973円
サンワサプライ チェアマット 90×120cm ポリカーボネート — 7,980円
Bauhutte BCM-180BK 160×180cm PVC — 13,600円

※価格は調査日時点のものです。在庫や時期によって変わります。

手順5|マット以外の方法も比べる

床を守る方法はマットだけではありません。

キャスターを交換する。 オフィスチェアのキャスターは差し替えられる製品があります。床用としてウレタンなど樹脂のやわらかい素材のものが売られていて、椅子ごと買い替えるより安く済みます。適合するかは、脚の差し込み軸の太さで決まります。

椅子を動かす範囲を減らす。 デスク下収納の記事で書いたとおり、デスク下は左右27.5cmずつしか使えません。よく使うものを手の届く位置に置くと、椅子を転がす回数そのものが減ります。

ラグを兼ねる。 すでに部屋にラグを敷いているなら、その上にデスクを置く手もあります。ただし毛足のあるラグはキャスターが転がりにくく、椅子を引くのに力が要ります。

よくある質問

Q. クッションフロアでもマットは必要ですか

クッションフロアはフローリングより柔らかい塩化ビニル系の床材です。ガイドラインの修繕分担表は床材ごとに分かれていないので、考え方は同じになります。置いたことによるへこみ・設置跡は貸主の負担、動かしてつけた傷はそうではない、という線です。

Q. マットを敷くと部屋が狭く見えませんか

床の色と大きく違う色を敷くと、そこで床が途切れて見えます。透明タイプか、床に近い木目のものが目立ちにくいです。たとえば山善のCFM-120は、クリア・木目・ブラックの3色から選べます。

Q. 退去のときに何を見られますか

床の場合、部分補修の費用は経過年数で減額されません。入居時に床の状態を写真で残しておくと、元からあった傷との区別がつきます。撮る時期は入居直後です。

Q. マットの下にホコリが溜まりませんか

溜まります。薄いPVCなら丸めて持ち上げられるので、掃除のときは一度めくるのが早いです。厚い布製は重く、頻繁にめくる使い方には向きません。

まとめ

  • ガイドラインに「キャスターの傷」という項目はない。近いのは、貸主負担の「家具の設置によるへこみ・設置跡」と、借主負担の「引越作業等で生じた引っかきキズ」
  • フローリングの部分補修は経過年数を考慮しない。 長く住んでも負担額は減らない
  • 90×120cmのマットは、デスク幅100cmに対して幅が10cm足りない。デスク環境1.6㎡の約68%しかカバーしない
  • 19製品の価格は2,080〜13,600円で中央値3,220円。最多サイズは90×120cm

数千円のマットで防げるかどうかは、結局その部屋の床と椅子の使い方によります。ただ、床だけは「住んだ年数で安くならない」ということは、先に知っておいたほうがいいと思っています。

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